『パンズ・ラビリンス』つづき
2007 / 10 / 10 ( Wed )
パンズ・ラビリンスBOX_DVD
DVD:2008/03/26発売

この映画にはいくつかの切り口が考えられる。ロリコン映画であり、モンスター映画であり、そしてなにより戦争映画である。

(1)ロリコン映画としての『パンズ・ラビリンス』
21世紀の『不思議の国のアリス』、実写版『千と千尋の神隠し』と称される本作は、少女が不思議な世界に迷い込むと言う点ではそれらと共通点がある。公式のトップ画像でオフェリアが大木の中に入ろうとするときの衣装と仕草が最もロリータっぽい。その服は木の中に入ることで汚されることになる。オフェリアが大きなヒキガエルにあるものを飲ませ、カエルが吐き出す場面は『千と千尋』を思い出す。ここのロリコン描写は分かりやすい、また初潮等を連想させる場面もある。

『千と千尋』と似ているのは主人公があまり美少女ではない点である。『千と千尋』は公開当時に「ジブリにしてはヒロインがかわいくない」と話題になったが『パンズ・ラビリンス』も同じようなことが言える。オフェリアを演じるイバナ・バケロはブスなわけではない。しかしこれが10年以上前の映画なら金髪碧眼とまで行かなくても分かりやすい美少女を起用していただろう。監督の好みもあるのだろうが、今の時代の映画に人形のような美少女を出すとリアリティが感じなくなると言う判断なのではないか。なによりもオフェリアが直面する現実はとても厳しく、完全無欠の美少女には耐えられない世界だ。

その世界にいるオフェリアはもちろん幼いが身近にレジスタンスがいると気付いたときや母親の腹の中にいる弟への呼びかけなど時として大人びた姿を見せる。

(2)戦争映画としての『パンズ・ラビリンス』
主人公が入り込む非現実よりも現実の方が酷いという点で、この映画は正しく戦争映画である。日本ではPG-12指定(小学生未満はなるべく親・保護者が同伴)を受けている本作の残酷描写である義父ビダルの農民に対する仕打ち、後半の拷問のどちらもえげつない。そして何よりも彼は自己中心的だ。オフェリアの母親に対しても自分の息子を産む女性とか見ていない(なぜ男の子と分かるのは謎)。ビダルの残虐性は戦争の一側面をよく表している。彼は時計をいつも気にかけているが、自分の生きている証がほしいのだろう。それは恐らく彼の父親が残せなかったものである。

(3)モンスター映画としての『パンズ・ラビリンス』
ギレルモ・デル・トロらしいグロテスクな描写は健在である。クリーチャーこそフォーン/パンとペイルマンと少ないが、ラブクラフト的世界観や前作『ヘルボーイ』を経て水木しげるから隔世遺伝したようなペイルマンが印象的だ。詳しくは海外のHPのスケッチなどをみるとさらに面白い。ちなみにこの二つのキャラクターを演じているのは同一人物で、『ヘルボーイ』では半魚人エイプの中に入っていたダグ・ジョーンズ。マイムなどをやっていた彼は背の高さも印象に残るが首と顔の長さが絶妙で本当に異界の生き物のように見える。ちなみに『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』ではCGキャラクター、シルバー・サーファーの動きを担当している。

(4)ラストシーンほか(ここはネタバレあり)
ラストシーンの解釈は二つに分かれる。現実かすべてはオフェリアの幻想か。まずオープニングで写る撃たれたオフェリアだが、よく見ると血が引いていて時間が逆行していることが分かる。後から振り返るとこれはこれから始まる物語は少女が死ぬ間際に見た夢だと示しているように思える。となるとオフェリアの妄想ではなく現実だと言う証拠になるビダルや母親が見たマンドラゴラや迷宮が動くという(オフェリア以外の人間が)あちらの世界を目撃した場面があったとしても、彼女が倒れる時点までは夢だと考えることが出来る。となればその後の地下の王国や大木の復活も、外側にいる人間の視点ではないので夢の続きと考えても差し支えない。

と言ってもあれが現実か空想かは実は大きな問題ではない。この映画にとって重要なのはオフェリアが「地獄の現実よりも空想の天国」を選んだことである。これはあまり身近には感じないが世界を見渡せばいくつもの事件を思い出す。自爆テロや学校での拳銃乱射がこれに当る。あそこでのオフェリアは一人ではなく道連れを連れて地獄に突っ込んでいった。彼女の現実での敵を倒すためにはそれが必要だったのだ。ということでこの結末はハッピーエンドではなく悲劇であり、現代の映画として意味を持つのはこの部分であるというのがここでの結論だ。
22 : 08 : 42 | 映画 | トラックバック(9) | コメント(4) | page top
<<Emmy Rossum、Rehearsals.com動画 | ホーム | 『パンズ・ラビリンス』サウンドトラック>>
コメント
--おはようございます--

初めまして。Cnoteのkenkoと申します。
TBいただいてましたのに、お返しが大変遅くなってしまいました。
デルトロ作品は元々好きな方ですが、中でも一番お気に入りの作品となりました。

>ロリコン映画としての『パンズ・ラビリンス』

少女を泥だらけにしたり虫を這わせてみたり…
監督の趣味を感じました(笑)
by: kenko * 2007/10/13 10:27 * URL [ 編集 ] | page top
----

kenkoさん、コメントありがとうございます。別のエントリーでも書いたのですが
これまでは監督の趣味と言うか持ち味と物語が『パンズ・ラビリンス』ほどは
うまくかみ合っていなかったのではないでしょうか。
この映画は一見趣味に走った様に見えても物語がうまく支えていると思います。
by: JK * 2007/10/14 21:02 * URL [ 編集 ] | page top
--オフェリア--

TBありがとう。
たしかに、可愛い美少女ではないですけどね。
とても不思議な魅力のある少女(役者)ですね。
by: kimion20002000 * 2007/10/15 03:01 * URL [ 編集 ] | page top
--No title--

TBありがとうございました。
ロリに言及されているのが、非常にうれしいです。やっぱり。それでも可憐で良い意味で美しい少女ですね。
by: caramel*papa * 2007/12/12 01:49 * URL [ 編集 ] | page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
http://emfanjp.blog18.fc2.com/tb.php/374-44a05ec3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
パンズ・ラビリンス
 きわめて前評判の高い作品で、日本で紹介されることが未だにめずらしいスペイン映画ということもあって、かなりの期待をしていました。  しかし、自分の好みかといわれれば首をかしげざるを得ませんでした。  
[2007/10/12 06:11] シネクリシェ
『パンズ・ラビリンス』
映画の中でビダル大尉は周囲からカピタン(Capitan)と呼ばれていましたね。彼の威厳を示すかのように何度も何度も...。これで思い出したのが行進曲「エル・カピタン」。
[2007/10/13 06:05] 映像と音は言葉にできないけれど
パンズ・ラビリンス
ずーっと前からむちゃくちゃ楽しみにしていたギレルモ・デル・トロ監督最新作『パン
[2007/10/13 10:28] C note
mini review 07076「パンズ・ラビリンス」★★★★★★★★☆☆
解説: 1944年のスペイン内戦下を舞台に現実と迷宮の狭間で3つの試練を乗り越える少女の成長を描くダーク・ファンタジー。『デビルズ・バックボーン』のギレルモ・デル・トロ監督がメガホンをとり、ファシズムという厳しい現実から逃れるため、架空の世界に入り込む少女を
[2007/10/15 03:00] サーカスな日々
「パンズ・ラビリンス」お伽話は実は残酷な物語
「パンズ・ラビリンス」★★★☆ イバナ・バケロ 、 セルジ・ロペス主演 ギレルモ・デル・トロ 、メキシコ=スペイン=アメリカ 2006年、119分 1944年、内戦終決後のスペイン。 深い森の大きな田舎家へ 妊娠中の母とやってきた少女が主人公。 すべてが自分...
[2007/10/17 20:18] soramove
【劇場映画】 パンズ・ラビリンス
≪ストーリー≫ 1944年、内戦終決後のスペイン。父を亡くした少女オフェリアは、身重の母と共にゲリラが潜む山奥で暮らし始める。そこは母が再婚したフランス軍のビダル大尉の駐屯地だった。体調の思わしくない母を労りながらも、冷酷な義父にどうしても馴染めないでいた...
[2007/10/17 22:00] ナマケモノの穴
パンズ・ラビリンス
尾てい骨 頭蓋骨から 心臓へ   なんだか久しぶりです、ナメクジに尾てい骨をむじむじ齧られるような感触の映画を観たのは。しかも、ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」のときのような、頭蓋骨の内側から除夜の鐘をくわんくわん鳴らされた驚愕も味わいました。ち...
[2007/11/06 05:40] 空想俳人日記
パンズ・ラビリンス (El Laberinto del fauno)
監督 ギレルモ・デル・トロ 主演 イバナ・バケロ 2006年 メキシコ/スペイン/アメリカ映画 119分 ファンタジー 採点★★★★ もうこの位の歳にもなると、ほとんど見なくなった悪夢。稀に見たとしても途中で「あぁ、夢を見ているんだな」と気付いてしまい、もう興醒め甚
[2007/11/20 15:49] Subterranean サブタレイニアン
パンズ・ラビリンス 「逃げ場のない刹那さ」
カテゴリに入れるならホラー、しかしホラーでない? ダーク・ファンタジーと銘打たれた「パンズ・ラビリンス」作品概要については公式及びwikiを参照してください。多くの賞を取ってい...
[2007/12/11 03:00] CARAMEL*PAPA
| ホーム |