『レイチェルの結婚』を試写会で観賞
2009 / 04 / 15 ( Wed )
レイチェルの結婚 / Rachel Getting Married
2009/04/18公開 公式:http://www.sonypictures.jp/movies/rachelgettingmarried/
レイチェルの結婚 [DVD]
DVD 2009/11/04発売

ジョナサン・デミと言えばアカデミー賞で主要部門を独占した『羊たちの沈黙』(1991)が有名ですが、『クライシス・オブ・アメリカ』 (2004)以降は何本かのドキュメンタリーを撮っているようです。時代は前後しますがその中にはニール・ヤング(本作で歌を引用)やロビンヒッチコック(本作に歌手として登場)と言った音楽ドキュメンタリーがあります。それらからの影響なのでしょうかこの作品ではドキュメンタリー・タッチの生々しい映像を披露しています。脚本はシドニー・ルメットの娘、ジェニー・ルメットの初脚本です(と言っても40近いですが)。ルメット家の様子がうかがえるところもあると思いますが、そうではない部分も多そうです。

タイトルにレイチェルとありますが、主役はアン・ハサウェイ演じる妹のキムです。映画は彼女がとある施設から出て実家に戻るところから始まります。周りの家族の態度からそれがリハビリ施設であることが分かります。施設を出るための条件として元ジャンキーのための集会に行くのですが、車を使いたいと言うキムに対して(事故を起こしたら保険が利かないから?)父親が車は使わないように頼み、自転車を使う場面は笑えるのですが、これが後で効いてきます。

家族のキムに接するよそよそしい態度は彼女がトラブル・メーカーであることを示しています。父親は引け目を感じているようですし、母親は再婚相手なので深入りできません。姉であるレイチェルはいくらか踏み込んで彼女に接しますが、やがて今日の施設から帰ってきた妹ではなく主役は結婚する自分よと怒り出します。少し気になったのは花婿のベスト・フレンドのキアレン(と字幕ではなっていたように思うのですが、つづりはKieranでキアラン、あるいはキーランだと思います。アイリッシュ系ですね)です。彼とキムがすぐに関係を持つのは、必要以上に新郎と馴れ馴れしいキーランの同性愛疑惑を持たせないのとキムの尻軽ぶり、この二つを同時に示せるからでしょうか。

やがてジャンキーのキムがこの家族に取り返しの付かないことをしでかした過去が分かってきます。それがキム自身だけでなく、家族にどんな傷跡を残したかが判明する皿洗い選手権は、その印象的なドキュメンタリー手法とともに、前半のハイライトです。やがてキムは家に居づらくなり車で式のために近くのホテルに来ている(1)母親(デブラ・ウィンガー)のところに行きます。キムは姉や父親は自分のことを分かってくれないと文字通り母親に泣きつきに行ったわけです。ここでふつうのハリウッド映画なら母親はその母性で娘を慰めるわけですが、この映画ではそうはいきません。最後の頼みの綱であったはずの母親に冷たくされたことで自暴自棄になった彼女は車を乱暴に運転して大アザを作って帰ってきます。結婚式が終わった後でもう一度母親と話をしたいと望むキムに対して、その脇をするりと通り抜けるように帰宅しようとする母親(彼女自体に悪気はありません)の姿は、キムの立場を考えるとつらいものがあります。

しかし、この家族は少し打たれ弱いというか、東海岸インテリの限界を感じます。父親の再婚相手だけでなく、レイチェルのお相手もアフリカ系ですし、結婚式の衣装はサリー風、ミュージシャンはウードを弾き(ひっきりなしに演奏している彼らを、「話しているから、今は演奏をやめて」という場面が笑えます)、サンバ隊(シロ・バプティスタがいます、何枚か彼が参加したアルバムを持っているはず)が出てくる一方で、イラクから一時的に帰国した兵士もいるといった具合に、他文化に寛容であろうとする姿が打ち出されます。そんな結婚式の様子は面白いですし、その姿勢も正しいのは分かるのですが、どうしてもひ弱に感じてしまいます。父親だけでなくレイチェルの結婚相手シドニーも家族の(というよりはキムの)問題には深入りしないタイプなのでイラつきます。そういえば彼はミュージシャンかレコード会社のお偉いさんという設定のようですが、新居はハワイです。スタジオでもあるのでしょうか?少し気になります。『JUNO/ジュノ』を観た時に「新しい形の家族」について好意的な感想を書いたのですが、この家族には少し物足りませんでした(2)。この家族はユダヤ系とアフリカ系の夫婦という意味ではルメット家を参考にしたのかもしれませんが、80歳を過ぎて『その土曜日、7時58分』のような映画を撮るシドニー・ルメットはこの映画の父親とはかなり違うでしょう。

アカデミー賞ほかで主演女優賞にノミネートされたアン・ハサウェイはプリンセス役から始まってOLに女スパイと順調にキャリアを重ねているわけですが、タバコをプカプカやるジャンキー役ということで今までのイメージとはやや違います。この演技が認められてもこの路線は多くないでしょう。劇中で目の上にアザを作るのですが、あの大きな目にアザなので目立つこと、目立つこと。レイチェルがアザを冷やしながら式の衣装を準備するという姉妹の絆が見られるいい場面です。

この映画のラストは祭りの後という言葉がふさわしい風景が美しいのですが、家族とは最後に頼れるところなのか、それともやはり最後は自分自身を頼るしかないのかという回答のない問題がテーマなだけに、話としては見事なまでな投げっぱなしなのです。そこがまた清々しくも感じます。

(4/26 追記)
(1)母親が今住んでいる家でした。
(2)二度目を見たり、『グラン・トリノ』を見たりして思ったのですが、アメリカの未来の姿があるとすれば、(育てるのが難しそうな)クリント・イーストウッド演じるコワルスキーの精神を受け継ぐ人間をよりも、この映画に描かれた試練を乗り越えたバックマン家の人々なのではないかと思うようになりました。それでも彼らがそれを乗り越えることが出来るかは別問題です。

テーマ:☆試写会☆ - ジャンル:映画

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コメント
--アドリブ--

こんにちは。

>「話しているから、今は演奏をやめて」という場面が笑えます

ここ、実は即興らしいですよ。
あの演奏でアン・ハサウェイが演技に集中できず、
そこで発せられた言葉らしいです。

リアルでしたよね。
by: えい * 2009/04/18 13:48 * URL [ 編集 ] | page top
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----アン・ハサウェイがアカデミー賞主演女優賞にノミネート? 彼女って最近『パッセンジャーズ』にも出ていたよね。 「うん。そうだよ。 しかし、こう言っては失礼かもだけど、彼女は化けたね。 これはもう一世一代の名演。 まだ、いくつか観ていないオスカーがらみの映
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