『レスラー』試写会。 バランスの悪さは『ターミネーター4』と同等
2009 / 06 / 07 ( Sun )
レスラー / The Wrestler
2009/06/13公開 公式http://www.wrestler.jp/
レスラー [DVD]
DVD:2010/01/15発売

ミッキー・ロークの復活作と言われる本作ですが、個人的にはここ数年『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』『マイ・ボディガード』『ドミノ』『シン・シティ』でよく見かけていました。この4本はロバート・ロドリゲスとトニー・スコットの映画です。デンゼル・ワシントン主演の『マイ・ボディガード』では気付きにくかったのですが、かつて『トゥルー・ロマンス』でクエンティン・タランティーノと係わったことのあるトニー・スコットは何を思ったか60歳近くになって、再びQT/RR熱におかされかのように殺伐とした社会、メキシコ/砂漠が舞台、時制を入れ替える手法等を取り入れています。そんな世界観にミッキー・ロークはよく合っていたのでしょう。もちろん本格的復活という意味では本作からになります。

監督のダーレン・アロノフスキは『π 』『レクイエム・フォー・ドリーム』で知られていますが、近年のトンデモ映画金字塔といわれる『ファウンテン 永遠につづく愛』の人でもあります。これの後にミッキー・ローク主演でプロレスラーの映画を撮ると聞いて期待した人がどれだけいるでしょうか、当然のように規模の小さい映画になりました。プロレスに関しては今はそうでもないのですが一時期関心がありました。元人気レスラーが落ちぶれてトレイラーハウスの家賃も払えず、携帯電話もなしでドサ周りをしていると聞くとハードコアな試合も出てくるので大仁田厚を思い出しました。まあ国会議員まで上り詰めた(そしてさっさと辞めた)大仁田はある意味では勝ち組と言えそうです。調べたらこの映画の主人公ランディ・“ラム”・ロビンソンには色々とモデルがいるようです。ランディは今でもプロレスを続けているわけですが、かつて伝説的な試合といわれたときの対戦相手アヤトーラ(設定はたしか偽イラン人)は今や車を売る商売をしていて、こちらは勝ち組です。

映画のオープニングはリングへと上がるランディを後ろから追いかけ、試合後の控え室では対戦相手と親しそうに話す姿も映します。ここで「プロレスなんて、脚本がある八百長じゃないか」という意見が出てきます。しかしいくら筋書きが決まっているとはいえこれだけ激しい(ときには無駄な)動きをできる人が何人いるでしょう。それをフィクションだというなら俳優の仕事も単なるフィクションです。俳優の演技に心を動かされる人ならプロレスラーの試合にも感動できても不思議はないはずです。その代償というべきなのがランディの肉体です。途中で映画『パッション』の酷い拷問を受けるキリストが引用されるように、カメラに映る彼の身体はボロボロで傷は数え切れないほどあり、顔は歪んでいます。これを見た瞬間に観客の多くは「これができるのは今のミッキー・ロークしかいない!」と思います。ロークという役者の歩みとランディの姿を重ね合わさることによって、痛みがリアルに伝わり、それによってロークが輝いて見えるのです。ところがこの「フィクションでも感動できるプロレス」と「この役者にしか出せない味」というのは矛盾するわけで、この着眼点がユニークです。

やがてランディはステロイドや長年蓄積した疲労から心臓発作を起こしバイパス手術を受け、さすがにプロレスを諦めバイトしていたスーパーで長時間働くようになります。それが彼に耐えられるはずもなく、伝説的な試合の再戦に臨む決意をします。手術前は髪やボディの見栄えをよくするためにそれなりにお金をかけていたのが、ここではいきなりしょぼくなって泣かせます。ところがラストの再戦への流れが思ったより泣けません。それはランディを止めようとする人間がいないので、周囲の反対を押し切って出場という流れにはならないからです。というよりはこの時点までにランディ以外の人間が深く掘り下げられていません。そのためにいると思われる女性は二人、ランディの娘ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)と気が合うストリッパーのキャシディ(マリサ・トメイ)です。ランディがキリスト(ニックネームはラム)ならこの二人は聖母マリアとマグダラのマリアの役割を分担すると思いながら見ていると、娘との関係を修復したと思ったら直後に娘は退場します。この娘はランディにすっぽかされたくらいであんなに怒るような人間とは思えません。むしろ携帯電話すら持っていないランディに対してルームメイトなどを利用して、もっと保険をかけるような性格だと思うのです。その娘を引き継ぐような形でキャシディが前面に出てくるのですが、実は彼女自身の事情によりランディとは深い関係にはなれず、ランディはいきずりの女性と寝るという中途半端なものになっているのも残念です。演じているマリサ・トメイの演技そのものはストリップ・ショーも含めて素晴らしいです。監督も彼女が気に入り出番を増やしたためバランスがおかしくなったのかもしれません。

キャシディで印象に残っているのはストリップ・ショーのBGMがそれまではヒップホップ等の現代的な曲だったのに最後は自分の好きなメタルを使っていた点です。このときのTシャツはモトリー・クルーでした。彼女のステージ名はパムなので、どうしてもパメラ・アンダーソンを思い出してしまいます。音楽といえばエンディングの主題歌はブルース・スプリングスティーンの静かな曲ですが、劇中でメーンとなるのは80年代メタルです。予告編にも出てくる「80年代最高!グランジがすべてをだめにした」というセリフは監督の気持ちというより、ランディのLiving in the Pastぶりを示すエピソードでしょう(しかしポスターが親はAC/DCと娘がヴァンパイア・ウィークエンドとは分かりやすい)。このラットの曲をバックにしたランディとキャシディのやり取りもいいですが、ハイライトはラストのガンズ・アンド・ローゼズ「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」です。実は映画音楽はこの監督作品ではお馴染みのクリント・マンセルですが、ギターを弾いているのは元ガンズのスラッシュなのです。最後にアクセル・ローズへのクレジットもありますし、調べたところこの曲はミッキー・ロークがボクシングをしていたときの入場曲でもあるそうです。曲自体もやはり名曲で、プログレ・バンドのサイド・ギタリストが弾きそうなスラッシュのメカニカルなギター・フレーズ、それにからむ印象的なベース・ラインでつかみはOK、もちろんメロディやボーカルも良いのです。歌詞もランディの気持ちとシンクロする部分があると思います。『ファウンテン 永遠につづく愛』では手塚治虫『火の鳥』テイストを感じたのですが、これは『あしたのジョー』?いやあのエンディングは昔からよくある手法のひとつでしょう。

(追記)これを書いてから、Esquire日本版7月号の映画評と似ていることに気付きました。しかし「脚本のあるプロレスがどうして楽しめるの?」という質問に対する回答としては、わりとよくあるものだと思います。
(さらに追記)キャシディとパムではパムが本名でした(逆のほうがいいのに…)。あとキャシディのストリップBGMはずっとロックでした。すみません。

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コメント
--なるほどです。--

こんにちは。

音楽からのアプローチ、
とても興味深く拝見させていただきました。

これまでのボクシング映画の常とう手段にある
感動の盛り上げに比べて
クライマックスで少し引いた形になっていたワケも
こちらを拝見して少し分かったような…。

もとより、ランディは人間として
ごく普通の男であるだけに
(女性との付き合い方、子供への接し方)、
自分の最終的な身の処し方が
あのようなラストになったのかなという感じも…。
ある意味、感情移入がしにくい映画でした。
あくまで個人的にはですが…。
by: えい * 2009/06/13 13:37 * URL [ 編集 ] | page top
--ランディは 悲しいな--

こんばんはJKさん はじめまして

う~ん ランディ、不器用だなぁ~
それに 娘との約束すっぽかすのは いかんだろ さすがに まずいぞ

そうそう・・・JKさん 同じくミッキーロークが演じた'88年公開の映画「ホーム・ボーイ」知ってますか?

 こちらは、ロークが アメリカ各地を渡り歩く流れ者ボクサーのジョニー役です。元妻のデボラ・フューアーと共演しています。

 これ以上説明するとネタバレになりますので 省略しますが レスラーのランディーとはまた違った男の不器用さを「ホーム・ボーイ」のジョニーは持っています。

 「レスラー」と「ホーム・ボーイ」 ともにミッキー・ロークの主演で、ふたりの不器用な男が主人公 ランディーとジョニー

 ふたつの作品を比べながら見るのも 悪くないですよ

by: zebra * 2011/09/20 20:50 * URL [ 編集 ] | page top
--Re: ランディは 悲しいな--

zebraさん、はじめまして
「ホーム・ボーイ」はテレビで見たことがあるかもしれませんが、内容は覚えていません
同じころの映画だと「エンゼル・ハート」のことは覚えています。
ちょうど某映画の予告を見て、もしかして内容が似てる?と思ったもので
「ホーム・ボーイ」も機会があれば見ようとおもいます。
by: 東京在住、HNはJK * 2011/09/20 22:31 * URL [ 編集 ] | page top
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